「はやぶさくん」の帰還を見守ろう!


クローズアップ現代「傷だらけの帰還 探査機大航海」(6/10/2010 NHK)より


3日後(6月13日)に地球に帰還する小惑星探査機「はやぶさ」の7年間におよぶ宇宙の旅と、それを支えた技術者たちの挑戦を紹介するという内容。


はやぶさは、宇宙航空研究開発機構JAXA、旧:宇宙科学研究所ISAS))が打ち上げた小型の無人小惑星探査機である。
(C)JAXA
その使命は3億キロ彼方の小惑星イトカワ」に着陸して、地表の岩石を持ち帰ることであった。
(C)JAXA


はやぶさには、日本独自の新技術であるイオンエンジンが搭載され、自分で判断して天体に着陸・岩石を採取できる高度なロボット技術が組み込まれていた。
このイオンエンジンの仕組みは、太陽電池により生み出された電気の力によって、燃料のガス(キセノンガス)からプラスの粒子とマイナスの電子を発生させてそれぞれを別の装置から放出し、プラスの粒子がマイナスの電子に引き寄せられる性質を利用して、推進力を生み出し動力にするというもの。
太陽電池を利用することで、きわめて少ない燃料で長距離の飛行を可能にする。


一方、目的地であるイトカワは、太陽を中心に地球の外側の軌道を1年半かけてまわる小惑星であり、太陽系ができたころの状態を今もとどめていると考えられている。
小惑星からサンプルを持ち帰るという計画は国際的にも例がないうえに、イトカワで採取した岩石を分析すれば、地球誕生の謎を解明する手がかりになると期待されているのである。


そのため、はやぶさのミッションが成功すれば、

  • 日本の宇宙技術の高さを世界に示すことができる と同時に、
  • 宇宙探査・開発の幅を大きく広げることができ、
  • 地球誕生の謎にせまることができる

という、まさに人類初の快挙ということになるのである。


しかし、その旅路はアクシデントの連続だったという。


そもそもはやぶさは、7年前の2003年の5月9日に地球を出発し、当初は4年で地球に帰還する計画だった。
2005年9月、はやぶさはほぼ計画通りに小惑星イトカワに接近し、11月に着陸した。
(C)JAXA/池下章裕


その着陸の際に、問題は発生した。
はやぶさは上空からまっすぐに着陸し、岩石を採取したらすぐに上昇するはずだったが、
着陸時に横転してしまい、予定通り上昇することができなかった。
その後、はやぶさはなんとか飛び立ったものの、着陸トラブルの際の燃料漏れが原因と推定されるトラブルにより、その姿勢は大きく乱れてしまった。


そして、再度の燃料漏洩が発生すると、姿勢の制御ができなくなった。
それが原因で、太陽電池パネルを太陽に向けることができず電力を得られないうえに、アンテナの向きもずれてしまい、
12月9日、ついにはやぶさとの通信が途絶えてしまったのだ。


一旦途絶えた惑星探査機との通信が復活した例は、今まで一度もなかった。
はやぶさは行方不明になってしまったのだ。


誰もが諦めかけたが、プロジェクトリーダーの川口氏は、
はやぶさが宇宙空間をさまよううちに、太陽電池に光が当たり、電力が回復する瞬間が必ずあるはずだと考え、
「ここで終わるわけにはいかない」という気持ちで、絶えず指令を送り続ければいつか応答が返ってくると信じ、わずかなチャンスに賭けた。


宇宙にはさまざまな電波が行き交い、ほかの電波に比べて微弱なはやぶさの電波は埋もれてしまう危惧があったが、
宇宙空間から送られてくる電波を、モニターでひたすらチェックする日々だったという。


そして1か月半後の2006年1月23日、はやぶさからの信号を再び受信することができたのだった!


ところが、通信回復の喜びも束の間、
はやぶさに搭載された11個のリチウムイオンバッテリーは全てバッテリー切れ、化学エンジンの燃料も残量ゼロ、機体はマイナス50度で凍りついてしまっていて、この時点で機体の動きを制御することは不可能だった。


しかし、イオンエンジン運転用のキセノンガスは残っていたため、太陽電池のパネルを安定して太陽に向けることができさえすれば、バッテリーを充電でき、地球へ帰還することができる。
イオンエンジンは電力不足で起動しないものの、燃料であるキセノンガスをそのまま放出させることは可能だったため、
ガスを放出する際の力を使って、機体の向きを変えるという作戦が考え出された。


試行錯誤すること2カ月、ようやく姿勢の制御に成功、太陽光を受けてバッテリーの充電状態を維持でき、イオンエンジンが動くようになった!!!
(C)JAXA


だが、2009年11月、はやぶさは絶体絶命のピンチをむかえる。
電力を得て復活したイオンエンジンが、4つ全て正常に動かなくなってしまったのだ。
原因は、当初4年だった計画がアクシデントによって大幅に延長されたことによる、機器の劣化だった。


ここで、イオンエンジンの開発研究担当者から提案されたのが、エンジン同士の生き残った部分を連動させる作戦だった。
4つのイオンエンジンは、それぞれに問題を抱え、個別には正常に動かないものの、
プラスの粒子を発生させる部分が正常なエンジンと、マイナスの電子を発生させる部分が正常な別々のエンジンを連動させることができれば、ひとつの正常なエンジンとして動かすことができると考えた。
実際に、イオンエンジンの開発研究チームは、隣同士のエンジンを連動させることができるごくごく小さい部品を取り付けていた。
しかし、エンジン同士を連動させる試験は一度も行われておらず、失敗したら機体全体が壊れてしまうという大きなリスクがあった。


勝算はなかったが、ほかに道もなかった。
エンジン連動作戦の結果は、成功!!!!!
以後、はやぶさは順調に地球帰還への軌跡を描き、最終段階の軌道調整にも成功、帰還の目途はようやく確実になった。


プロジェクトリーダーの川口さんの、
はやぶさは)忠実に指令に従ってくれること以上の反応を示す、
という趣旨の言葉が印象的。


もちろんはやぶさはマシンだから、
はやぶさの活躍は、全てプロジェクトチームの人材の研究開発と技術の賜物なのだけど、
はやぶさの困難を乗り越え続けた大航海の軌跡を観て、川口さんのその言葉を聞いたら、
機械にも魂が宿る、みたいなことはほんとうにある、と思えてならないのでした。


実は、はやぶさにはこのあと劇的な運命が待ち受けている。


採取した岩石が入ったカプセルを地球に落としたあと、はやぶさは自身は燃え尽きてしまうことになっているというのだ。


えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


はやぶさ物語に感動し、はやぶさにすっかりどっぷり感情移入していた私は、
番組の最後にそんなことを聞かされて、もうびっくり。


そんなドラマチックな運命をむかえるはやぶさに届いた、あすかちゃんという5歳の女の子の手紙が紹介されていた。


「あすかははやぶさくんがだいすきです。
でもはやぶさくんがもうじききえてなくなるというはなしをききました。
でもあすかははやぶさくんがだいすきなので、
いっしょうはやぶさくんのことをおもいつづけます」
(※あすかちゃんのお父さんの付記
うちの子は今涙をぽろぽろ流しながら手紙を書いております)


私は、はやぶさ自身の「がんばり」を大いに感じ、
川口さんはじめプロジェクトに携わった人々のはやぶさに対する愛に大いに萌え、
あすかちゃんにもらい泣きし、
宇宙関連の話題には今まであまり理解がなかったが、実に興味深く番組を観た。


はやぶさくん」の帰還を見守りたい。
(C)JAXA