ボルベール<帰郷>(VOLVER)

cocoxxx2007-08-19


2006年/スペイン/監督:ペドロ・アルモドバル/主演:ペネロペ・クルス

【story】※ネタバレあり
マドリードで夫と娘との家庭をもち、家計を支えるため働きながら、日々あわただしく過ごすライムンダ(ペネロペ)。
ライムンダと姉ソーレの父と母はともに4年前に火事で死んでしまった。ライムンダは故郷のラ・マンチャに一人で暮らす痴呆のパウラ伯母を心配している。
ある日、伯母と同じ名前の娘パウラに夫が関係を迫り、パウラは父親を刺し殺してしまう。ライムンダは娘を守るため、夫の死を匿すことを決意する。
その同じ夜、パウラ伯母が息をひきとったとの連絡を受ける。その葬儀を姉と伯母の隣人であるアグスティナに任せ、閉店した隣のレストランの冷凍庫に運んだ夫の死体の始末について考えるライムンダは、近くで映画撮影中のクルーに主人と間違えられ、撮影期間中の彼らの食事を用意して日銭を稼ぐことになる。
一方伯母の葬儀は、ぼけていたはずの伯母が自分の死後の手配を抜かりなくしていたこともあり、とどこおりなくとり行われたが、そのときソーレは死んだはずの母イレネを見てしまう。近所の人々もイレネの幽霊をたびたび目撃していたが、人を狂わせる東風が吹くこの地域では、幽霊を見かけることなど「よくあること」だという。
しかし、ソーレが自宅に帰り着くと、車のトランクから母が出てくる。驚愕し、困惑しながらも、夫に出てゆかれて寂しく暮らすソーレは、幽霊なのか生きているのかわからぬ母とともに暮らしはじめる。
ソーレはライムンダに母のことを打ち明けられずにいたが、ライムンダはソーレの家を訪れたときに懐かしい母の匂いを嗅ぎとる。しかし、母イレネは、突然自分を拒み、家を出て伯母と暮らしはじめたライムンダと会うことを躊躇し、
ベッドの下に隠れてしまう。
そんな折、撮影クルーの打ち上げで、ライムンダは母との思い出の曲である「ボルベール(帰郷)」を歌う。母、過去、故郷への想いがよみがえり、涙をたたえての歌声に、近くにとめた車の中に隠れてそれを聴く母の目からも涙があふれる。
母と娘の再会のとき、すべての過去と秘密が明らかになる。


【comment】※ネタバレあり
スペイン、ラ・マンチャ出身のペドロ・アルモドバル監督の女性賛歌3部作の最終章。

別につづきものではないが、前作2作は<オール・アバウト・マイ・マザー>(1998)と<トーク・トゥ・ハー>(2002)であり、どちらも好みの映画だったが、<ボルベール(帰郷)>はこれらを超えてもっとも傑作だと思う。多分に個人的な好みもあるが、ストーリーもキャストも映像も音楽もあらゆる要素が秀逸で、ポスターやウェブサイトのデザインさえもよい。

夫の死体の始末をしている最中に来客があり、顔についた血について聞かれたシーンで、「女にはいろいろあるのよ」というライムンダのセリフがツボだった。それだけ聞けば普通すぎるセリフだが、ほんとうに「いろいろ」としか説明できない事情を抱えた女が言う「いろいろある」は強い。言われたほうは納得するしかない。
それより前のシーンで、ライムンダがキッチンのシンクで、食器と包丁を洗う映像があるのだが、その後のシーンで、夫の血がべっとりとついた包丁を、食器の上で、食器用のスポンジで、同じように洗う映像が強烈。この行為に疑問や抵抗がまるでない様子に、女のリアルを感じたのと同時に、ライムンダのセリフに一気に説得力が増したと感じた。

物語が進むにつれ、それぞれの女の事情と感情がさらにいりくみ、さらに濃くなってゆく。

全編通して「男」の姿はほとんど出てこなかったのが印象に残る。そのなかで、主要出演女優6人が全員カンヌ映画祭で女優賞に輝いたのも納得の演技力で、最後まで目が離せない。

久しぶりの充実感に満足。誰かと一緒に観るなら女性と。