谷川俊太郎の恋文

あくびがでるわ
いやけがさすわ
しにたいくらい
てんでたいくつ
まぬけなあなた
すべってころべ



これは著名な詩人谷川俊太郎さんによるもので、「谷川俊太郎の恋文」と呼ばれている。
一読すると恋文には到底思えないが、それぞれの文章の文頭の文字をつなげて読むと「あいしてます」という愛の告白になっている。



これは「折句(おりく)」と呼ばれるレトリックのひとつであり、古典「伊勢物語」の中で「かきつばたという五つ文字を句の上におきて旅の心を読め」という問いに対して、在原業平らしき男が以下のように詠んだとされる。

から衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬるたびをしぞおもふ



ちなみに、海外では同様のレトリックを「アクロスティック(acrostic)」という。



谷川俊太郎さんの恋文をはじめて知ったのはずいぶん昔のことだったが、子供心にすてきだと感動したのを覚えている。
レトリック自体を真似するのは簡単だが、これほどすてきな表現にするのは難しい。



この恋文がすてきであるポイントは、ひとえにギャップにある。
普通に読むと、恋人に対して不満を言い、悪態を吐き、呪ってまでいるのだが、ふと「あいしてます」という言葉が巧妙に浮かび上がってきて、ひとたびそれに気がついてしまうと、天邪鬼な態度こそが本心の真実味を確かにしているように感じられる。



さて、このすてきな恋文を、ロマンチックをまったく解さない私の恋人に書き送り、案の定すてきさがわかっていない彼に、そのすてきさをせつせつと説く。
私「わかった?」
恋人「わかったよ。ツンデレってことだね」
私「・・・」