ある外資系証券会社のえらいひとが憧れたもの

外資系証券会社で働いている友達から聞いた話。



友達の大ボスであるM氏は、裕福な家庭に生まれ、海外の大都市で育ち、世界的な一流大学を首席で卒業し、誰もが知る外資系証券会社で重要な地位に就き、美人の妻がいる。
M氏は業界内でも屈指のやり手として一目置かれる存在だが、その境遇や才能、経済力に起因する傲慢な態度や発言も有名である。
「100平米以下の家は、家ではない」というのはM氏の持論の一。



さて、そのM氏には、憧れているものがあった。



オフィスからクライアントのオフィスへの移動の際、通常はもちろんタクシーを利用するが、たまーに、電車で行ったほうがずっと早いし、楽、ということがあり、
M氏は部下と連れ立って、プライベートでは絶対に乗らない電車に乗ることになる。
その際、自分が切符を買っている間に、部下たちがみな財布やカードケースやケータイをかざして改札を通っているのが、M氏は不思議であり、不愉快だった。



そして、友達がM氏と一緒に電車を使ってクライアント先に行くことになったある日、いつも通りカードケースでピッとした友達の背後で、たたずむ不機嫌な声。



M氏「なんだよ、それ」
友達「?」
M氏「なんだよ、そのピッ」
友達「・・・suicaです」
M氏「スイカってなんだよ」



友達にsuica(pasmo)についてくわしく説明させたあと、M氏は一言だけ、
「ふうん」
と言った。



後日、M氏は友達に
「見ろよ、これ」
と、自分のsuicaを自慢顔で見せてくれたという。
友達だけにではなく、秘書さんたちや部下たちにも披露していたという。



普段は、その傲慢さや、仕事上の容赦のかけらもない酷い要求や追及に恐れ震えあがっている彼らの、その日M氏を見る目は、優しかったという。