春のおとずれ

家の近所にお気に入りの蕎麦屋がある。店の名前は<又八郎>という。

蕎麦がおいしいのはもちろん、店のたたずまいや雰囲気がいかにも蕎麦屋な感じで好みなのだが、店をひとりで切り盛りしているらしい主人がちょっと変わっている。
小さい店は客が10人ほどしか入らないのだが、満員時に客が入ってくると「今いっぱいなんで」とにべもなく言い放ち、オーダーされた順番通りにもくもくと蕎麦をつくる。最後の一本まで集中した手つき顔つきで蕎麦を盛る様子は趣がある。
しかし、休業日も閉店時間不定なので、蕎麦を食べる気満々で店まで行き、裏切られることも少なくない。

さて、日本に帰国して間もない2月下旬の休日、まだまだ冷たい冬の空気のなかを、恋人と寄り添い合いながら、その蕎麦屋へ行った。

すると、閉じられたシャッターに張り紙がある。

まさか、冬眠とは。

その後もしばらくその張り紙はさむざむと風に吹かれていたのだが、だんだん陽気のあたたかさを肌に感じはじめ、冬のコートをクリーニングに預けた今日、店の前を通りかかったら、のれんがかかっていた。

すぐに恋人に「又八郎、冬眠終了!」とメールを送ったあと、いよいよ春だな、と思う。

今年は妙なことで春のおとずれを感じてしまったが、ロマンチックではなくともおもしろくはある。

ちょうどこの日、東京では桜の開花が宣言された。

Victoria's Secretで日米のブラジャーサイズについての考察

アメリカで人気のランジェリーブランドといえばまずは「Victoria's Secret(ヴィクトリアズ・シークレット)」である。
Victoria's Secretは1977年にサン・フランシスコで生まれ、今や全米に900店舗以上をもつ。ファッションショーやブランドキャラクターにトップモデルやトップスターを起用することでも有名で、その取扱い商品はランジェリーのみにとどまらず、スリープウエア、衣料品、コスメティクスやその他美容関連商品まで幅広く、若い世代を中心に圧倒的に支持されている。



ランジェリーのなかでもブラジャーについては、日本とアメリカでサイズが大きく異なるので、選ぶときに注意が必要だ。
まずサイズの表記が、日本では「カップサイズ+アンダーバスト」だが、アメリカは「Band Size(アンダーバスト)+カップサイズ(Cup Size)」というように逆になっている。
そしてサイズの種類は、日本ではアンダーバストのサイズが65cmから5cmきざみで、カップサイズがABC〜の順で大きくなる一方、
アメリカ(Victoria's Secret)では、Band Size(アンダーバスト)が32 inchから2 inchきざみで、カップサイズが同じくABC〜の順で大きくなる(Band Size 30やCup Size AA(Aよりも小さい)なども存在はする)。



私のブラジャーのサイズは日本だと「E65」だけれど、アメリカのサイズはわからなかったので、てっとり早くサイズを測ってもらったところ、「32B」とのこと。
Victoria's Secretの店舗で扱っている一番小さいサイズは基本的に「32A」なので、すると私のブラジャーのサイズは2番目に小さいサイズということになる。
いわく「あなたのBand Sizeは30だけど、それはつくっていないから32、店内の32にはAとBまでしかないから32Bね、でもそれで大丈夫だと思うわよ」。



見慣れた自分のバストにたいして32Bはあきらかに小さく見えたが、言われたとおり試してみた。
案の定、おさまりきらないおっぱいは脇からはみだし、谷間は差し込んだ小指が胸骨に到達しないほど窮屈で、あげくのはてには乳輪まではみでる始末。



Victoria's Secretのホームページには、「MEASURE FOR A PERFECT FIT」というブラジャーのサイズを決める計測方法が紹介されている。
それによると、まずメジャーでおっぱいの下の胸郭(アンダーバスト)をぐるりと測ったら、その長さに5 inch(12.7cm)を足して「Band Size」とする。
次に、おっぱいの一番盛り上がったところをまたぐるりと測り、その長さとBand Sizeの長さの差が1 inch(2.54cm)きざみで大きくなるごとに「Cup Size」がABC〜と順に導き出され、ブラジャーのサイズが決まるのだ。
一方、日本の計測方法は、まずアンダーバストを測り、次にトップのサイズを測り、その差が10cmでAカップ、以降はその差が2.5cmきざみで大きくなるごとにBCD〜とカップサイズが導き出され、サイズが決まる。



ようするに、カップのサイズを決めるときに、日本ではアンダーとトップの差を10センチでAカップとしているのに、アメリカ(Victoria's Secret)では、その差が15.24cmでAカップということなのになるのだ。
Aカップの時点で5.24cmの差があるということは、日本の1カップの差は2.5cmなので、アメリカのブラジャーを選ぶときは、カップのサイズが2つあるいは1つ小さいものを選べばよい。



ということは日本サイズでE65の私には「32C」か「32D」が適当ということになる。
店員にはないと言われたけれど、私は自力で「32C」をひとつだけ探し出し、再び試着してみると、「気持ちタイトな着け心地が好み!なによりボリューム感が命!無理矢理にでも押し上げて見せるわよ!」的なアメリカのブラジャーの特徴によって、ボリュームの強調効果が自分でも照れるほど発揮されているが、着け心地ははたしてよい具合である。
日本のブラジャーには、「ボリュームも大事だけど、あざとさがない自然な見た目が好み、なにより重要なのはブラジャーを着けてないみたいなやさしい着け心地」という特徴があるので、おそらく32Dであれば、E65と似た都合になると予想する。



それにしても、日本のEカップアメリカではCカップに相当するとは恐れ入るばかりである。

William® Umbrella

とても気に入っている傘がある。これを使えると思うと雨も雪も歓迎できちゃうくらい。

「William® Umbrella($18)」

「William®」はメトロポリタン美術館の非公式マスコットである青いカバ。非公式とはいっても、William®グッズはたくさんある。メットに所蔵されている、紀元前約1981-1885ころのエジプト第12王朝時代のものと推定されている青いカバのかたちをした焼き物が、William®のモデルとなったオリジナルである。

実は、この「青いカバの焼き物」は唯一のものではなく、似たような青いカバの焼き物がルーブル美術館をはじめ数多くの美術館、博物館に所蔵されている。
というのは、古代エジプトにおいて、カバはもっとも強い猛獣のひとつとされ、スポーツハンティングの対象でもあった。それゆえ、高貴な身分の人間の死後は、カバをかたどった焼き物がその守護者として、墓に一緒に埋葬されたのである。
それが後世になって発掘され、大小、かたち、模様、さまざまな青いカバたちは、世界中で日の目を見たということだ。

さて、この傘はメットのオリジナル商品を扱う「THE MET STORE」のなかでも子ども用商品を扱う「MetKids」の商品なのだが、大人の女性でも十分使える大きさ。ただ、大人の女性がこの傘をさしている場合、「それかわいい!」とほめられることもあるかわりに、無言でひかれる可能性があることも覚悟しなければならない。

小布施堂の栗鹿ノ子

妹が日本から遊びにきたときに母が持たせてくれた「小布施 栗鹿ノ子」。長野県にある「小布施堂」のこの栗鹿ノ子は、栗と砂糖だけで練った栗あんに大粒の栗がごろっと入っているのが特徴。パッケージも美しく風格があってそそられる。

はじめてこれを食べたのはいつだったか、まだ小学生のときだったと思うが、一口食べた瞬間に、栗の風味が存分に味わえるとびきり上品な味の虜になってしまった。我が家にとってはかなりの贅沢品だったため滅多にはお目にかかれなかったが、それでも来客のついでなどでときどき食べられるときは、それはもう嬉しかったものだった。

そして今回また久しぶりに味わうことができたわけであるが、小布施堂のホームページを見てみると、そこには大好物の栗鹿ノ子だけではなく、栗羊羹も栗最中も落雁(栗密入り)、栗アイスまである。日本に帰国したらネットショッピングでいろいろ試してみたい。

メトロポリタン美術館のポストカード「HOME IS WHERE THE ART IS」とサロメのおはなし

メトロポリタン美術館(通称:メット)といえば、NYCにある世界最大級の美術館の一つであり、所蔵される美術品の数は300万点を超える。コレクションはあらゆる時代あらゆる地域にわたって幅広い。

2007年12月にオープンした「Galleries for 19th-and Early 20th-Century European Paintings and Sculpture Including the Henry J. Heinz H Galleries」のコレクションには、ゴッホルノワール、モネ、セザンヌピカソゴーギャンドガ、マネなど世界的に人気が高い有名画家の作品が多く、1日ではとても回りきれないといわれる広大なメットのなかでもみなが必ず鑑賞していく展示となっている。

その「Galleries for 19th-and Early 20th-Century European Paintings and Sculpture Including the Henry J. Heinz H Galleries」のコレクションのうちの13作品を題材として、アメリカ人のEdward Sorelによって描かれたユニークな絵が「HOME IS WHERE THE ART IS」。

題材となったのは以下の作品。

  • Edgar Degas「Portraits at the Stock Exchange」
  • Edgar Degas「The Dance Lesson」
  • Jean-Auguste-Dominique Ingres「Joseph-Antoine Moltedo」
  • Camille Corot「A Woman Reading」
  • Adolphe Bouguereau「Breton Brother and Sister」
  • Pablo Picasso「Gertrude Stein」
  • Édouard Manet「The Spanish Singer」
  • Vincent van Gogh「Self-Portrait with a Straw Hat (verso: The Potato Peeler」
  • Auguste Renoir「A Waitress at Duval's Restaurant」
  • Paul Gauguin「la Orana Maria (Hail Mary)」
  • Paul Cézanne「Dominique Aubert, the Artst's Uncle」
  • Claude Monet「Jean Monet (1867–1913) on His Hobby Horse」
  • Henri-Alexandre-Georges Regnault「Salomé」

ゴッホがカメラをかまえていたり、ゴーギャンの「la Orana Maria (Hail Mary)」のモデルの女性が手にメットのショップ袋をさげていたりする。「HOME IS WHERE THE ART IS」と題材13作品のポストカードセットも販売されている。

ちなみに、右下にいる黄色いドレスの女性はHenri-Alexandre-Georges Regnault「Salomé(サロメ)」が題材。

この絵のモデルであるサロメとは、ユダヤヘロデ大王の息子である古代パレスチナ領主ヘロデ・アンティパスの妃、ヘロディアの娘。ヘロデ・アンティパスは自分の弟でもあるサロメの実父を殺し、その妃であるヘロディアを娶った。ヘロデ・アンティパスにとってサロメは姪であるわけだが、サロメの美貌は伯父をも魅了するほどだったという。そのサロメは、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品にもある通り美男子だったと伝えられている洗礼者ヨハネが、他の男とは違って自分にまったく興味をもたないがゆえに彼に恋をした。しかしヨハネサロメの誘惑を一切拒絶し、そしてサロメは彼女に夢中であった義理の父に再三懇願されてついに「7枚のヴェールの踊り」を舞った際に、褒美として好きなものを求めよと言われ、ヨハネの首を銀の皿に載せて与えてほしい、と望み、ヨハネは首を刎ねられ、サロメはその首にキスをした。

この話は一緒に鑑賞していた妹が教えてくれたのだが、なるほどこの絵の「Salomé」の膝には銀の皿が、その手には刃物が見える。

調べてみると、これはオスカー・ワイルド(Oscar Fingal O’Flaherty Wills Wilde)の戯曲「Salome」のストーリであり、これを元にしてリヒャルト・ストラウスにより作曲されたオペラ「Salome」は世界中で上演されている。

しかし、このストーリーは多分にワイルドによりアレンジされたものであり、伝承の内容とは多少異なっている。

新約聖書のマルコおよびマタイによる福音書の記述は以下のようになっている。ヘロデ・アンティパスは、兄弟の妻であったヘロディアを妃にしたことをヨハネに強く糾弾されて彼を投獄したものの、ヨハネ預言者として信奉していた民衆を恐れて処刑できずにいた。そんな折、ヘロデ・アンティパスは自分の誕生日の宴席で、サロメが素晴らしく踊ったのでその褒美になんでもほしいものを与えると誓った。そこでサロメは母であるヘロディアに何を望むべきか問うと、日頃自分の結婚を非難していたヨハネを恨んでいた彼女は、ヨハネの首を求めるようにサロメに命じた。ヘロデ・アンティパスは誓いを退けられず、ヨハネの首を刎ねてサロメに与えた。

また、ヨハネの死にはヘロディアもヘロディアの娘サロメも関与しておらず、それはひとえに民衆が信奉しているヨハネの影響力とそれによる反乱をヘロデ・アンティパスが危惧して彼を処刑した、という記述*1もあるので、はたして真相がどうだったのかはわからない。

ともあれ、ワイルドのストーリーの方がドラマチックであることは確かだ。そして、芸術作品の題材についてこうした知識があると、作品をよりいっそう楽しむことができるのも事実である。

*1:フラウィウス・ヨセフス「ユダヤ古代誌」